暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
……が、陛下は平然とした様子でコーヒーを啜った。
「………これはいつも甘くない」
「え?」
「まるで…余の好みを熟知しているかのように」
どこか優しい目で、バタークッキーを見つめる。
「甘々しい見た目だが、このクッキーは甘くない。砂糖が控えられてあるだけでなく、コーヒーと調和するように考えられているようだ」
「へぇ〜、お前をそんな顔にさせる奴がこの城にいるなんて興味深いな」
「どんな顔をしていたと言うのだ」
「面白かったぞ?珍しく柔らかい雰囲気と言うか」
「戯言を申すな」
陛下は機嫌を悪くしてしまったようだが、剣が飛んでこないところを見ると、いつもよりは機嫌が良いようだ。
「それにしても、誰がこれを淹れているんだ?身の回り担当と言えば……側近部か?」
「誰であっても、余には関係のない事だ」
「お前の為に働いている下の者ぐらい、偶には気にしろよ…」
「気にしてどうなる」
冷たく言い放つと、コーヒーカップをソーサーの上に戻す。
「……淹れている者は、恐らく命知らずの者に決まっている」
呟くように口にしたその言葉に、ファンが反応する。
「何故そう思う?」
「……決まっている。ここでは、余の機嫌を取ろうとする者ばかりがいるからな」
その表情はどこか寂しげだった。
「……それはお前がいつも殺気だっているからだろう?機嫌を取ろうとするのも、無理はない」
「どうだかな」
「そう言えば思い出したが、巷では『恋をすると人は変わる』と言われているらしい。どうだ?妻でも娶ってみたら。少しは変わるのではないか?」
「なん…だと?」
「正妃どころか側妃でさえも、いないだろう。王にとって後継者問題は重要だと俺は思うが」
その話を振った途端、陛下はどす黒い殺気を放つ。
「はぁー…。言ってみただけだ」
「言葉には気をつけろ」
陛下は席から立ち上がると、再び仕事に取り掛かった。