暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
「そのグラスはマテオ・マテラの物ではないですよ」
「な…っ!何をふざけた事……っ。これは正真正銘マテオ・マテラのグラスよ!!だって商人から仕入れたってお父様が言っていたのだから!!」
「それが偽物だという証拠ですよ。マテオ・マテラのグラスは、商会には置いていないのです。商人が売りに行く事もありません」
証拠はそれだけではない。
「マテオ・マテラのグラスは透明度が高く、それ故に反対側に手を置いてみると鮮明にその姿が見えるのです。そして、先程王女様はグラスを掲げましたよね?本物のグラスは光に当てられると宝石のように美しく輝く……。それに対し王女様のグラスは光が鈍かった」
「…っ!本物のグラスを知らない人間がよくもそんなデタラメを…っ!!」
どうして私がそんな特徴を知っていたのか。
それは、実際に見たことがあるからだ。
数年前にマテオ・マテラがお城を訪れた事があった。
偶然にもお茶入れを担当したのが私で、その時にそのような話を聞いたのだ。
実際に帝国は本物を二つ所持している。
それもあり、私は直ぐに偽物だと気がついたわけだけど……。
まさか王女様が偽物を掴まされていたなんてね…それも本物だと思い込んでいたなんて。
「偽物をお買いになられた事は残念ですが、もし疑われるようであれば鑑定されてみてはいかがでしょうか?その方が王女様も納得される事でしょう」
間違いも指摘できた訳だし、このままこの場を去りたいところだけど。
顔を真赤にしてプルプル…と身体を震わす王女様を見ると……少しやりすぎたかな…?
「あ、あの…」
「……貴女、生意気なのよ…っ!!」
「え?」
声を荒らげ、右手を高く振り上げる王女様。
その行動に先程まで一緒に笑っていた取り巻きの女性たちも顔色を変え、必死に止めようとするが……
実際に王女様を止めれる者などその場には誰一人いなかった。
勢いよく振り下ろされた手が私へ近づく。
えっ、ちょっと待っ…!
そう思った時には、既に鋭い痛みが頬に走っていた。
バチン…っ!!!
「…っ!!」
ヒリヒリとする頬にそっと手を当てる。
王女様は「生意気を言った罰よ!!」と叫びちらしながら座り込んだ私を上から睨みつけていた。
賑やかな話し声が聞こえていた会場はシン…と静まり返り、視線は私達に集まっているのが分かった。
確かにあれ程まで大きな音が響けば、周りの人達だけでなく遠くの人達までも気づいたかもしれない。
どうしたら良いか分からず、取りあえず立ち上がろうとした時だった。
皆の顔が恐怖に引きつっている事に気がついた。