暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
ピタッ。
私の叫び声に反応するかのように、陛下の剣は王女様の首元で動きを止めた。
その位置から動く事のない手は、まるで続きの言葉を待っているかのようで。
張り詰めた空気の中、周囲の視線を一身に浴びながら私は再び口を開いた。
「どうか…お止め下さい」
「………」
少しの沈黙が続いた後、陛下は軽く息をつきながらも剣を鞘へ戻した。
解放された王女様は、安堵からか腰を抜かしたようにその場にへたり込んだ。
「その頬…赤く腫れているな」
「あ…」
目の前に立つ陛下は、まるで壊れ物に触れるかのように赤く腫れた私の頬に優しく触れた。
「直ぐに冷やす物を用意させよう。アニは外で休んでいなさい」
「分かり…ました?」
陛下が視線を送ると、どこからか使用人が現れた。
「休憩室へご案内致します」
「………はい」
少しの不安が残る中、私は言われた通り会場の外にある休憩室へ向かった。
用意してくれた冷えタオルで頬を冷やす事、数十分…。
ガチャ。
「まだ赤いな」
陛下が休憩室へ姿を見せた。
「陛下…!」
「通常の予定よりも早いが、パーティーはあれでお開きとなった。その…すまなかった」
「陛下…!?何故、私に謝罪されるのですかっ!?」
「あの時、そなたの傍を離れていなければ、あの様な事は起きなかっただろう。そなたの顔が傷つく事も…」
そう言えば、顔の事となると妙に気にされる方だったのを忘れていた。
「私なら大丈夫です」
頬はまだ少し痛むけれど、このまま冷やし続けていればその内腫れは引くはずだ。
顔に傷が残るわけでもないし、そこまで心配する必要はない。
「…そうか。馬車を入口に用意させてある。そろそろ向かおう」
「はい、陛下」
頬を冷やしながら、馬車のある入口へと向かう。
馬車に乗り込むと疲れからか急な眠気に襲われ、私は抗う事も出来ずにそのまま瞼を閉じたのだった。