暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
「………ファンはいるか?」
「はい。何でしょうか」
「日が昇り次第、ここを出発する。それと、誰でも良い。今から帝国へ向かわせろ」
早馬であれば、帝国へ到着するのに五日もかからないはずだ。
戻った頃には戦争の準備が整い、直ぐにヴィスタン王国は地図上から消える事になるだろう。
「一体、何を為さるおつもりですか……?」
「戦争だ」
恐る恐る尋ねてきたファンに、躊躇なく答える。
これは、もう既に決めた事。
例え反対されても実行するつもりだ。
「戦争……とは、また急なお話ですね。ちなみにどこの国ですか?帝国を敵に回した馬鹿(国)は」
「ここだ」
「ここ…ですか?」
「ヴィスタン王国だが」
「……………ここかっ!!?」
少しの沈黙の後、ファンの驚いたような大きな声が部屋に響き渡った。
「おい、大きな声を出すな。アニが起きるだろう?」
「あ、それは悪い……」
その言葉にハッとし、ファンは声量を落とす。
「……一体何がどうなって主催国と揉めたのかは知らないが、取りあえずヴィスタン王国を攻めるとなると、第一騎士団長の出馬は確実だな。そうなると指揮は当然その第一騎士団長が―――……」
「いや、指揮は余が行う」
本当であれば自ら出向く程の相手ではないのだが、今回は直接この手で制裁を加えてやらねば気が済まない。
「もちろん王女は死刑だ。国王も連帯責任として死刑。…うむ、宰相も死刑でよいな」
「今のところ全員死刑か…」
ファンは苦笑しているが、パーティーでの出来事を考えるとこれは当然の制裁だ。
それに、わざわざ警告までしてやったのに、それを無視して危害を加えたのだから。
「…取り合えず、俺は宰相としてお前の命令に従う。今から帝国へ一人向かわせれば良いんだな?」
「………」
……だが、その方法だと時間がかかる。
馬車は早馬のように直ぐには帝国へ到着できない。
最低でも四日はかかるだろう。
そこからまた部隊を率いてヴィスタン王国へ向かうとなると、進み具合にもよるが…八日前後か。
その間に感づいた王族等が身を潜めても困る。
だからと言って、アニを直接馬に乗せて移動する訳にもいかない。
「………決めたぞ」
時間が惜しいなら、
「今夜中に国を潰すぞ」
滞在中に潰せば良い。