暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
痛みで思わず地面に膝を付けてしまった隙に、背後を取った刺客が俺に向かって長剣を振りかざす。
俺の人生もここまで…か。
目をぎゅっと瞑った、その時だった。
カキーンッ!!
後ろから聞こえてきたのは、剣と剣が激しくぶつかり合う音。
そして、
「これはまた面白い光景に遭遇したものじゃな」
「誰だ貴様は…っ!?」
その場にそぐわない、穏やかな男の声だった。
驚いた俺が後ろを振り返ると、そこには大剣を握った大柄な男が刺客の剣を受け止めていた。
「…ッチ!」
手に持っていた武器を軽々と弾き飛ばされた刺客は、素早く懐から短剣を取り出す。
大剣よりも短剣の方が素早い攻撃が出来る為、大剣を使う男の方が明らかに不利である事は一目瞭然。
しかし―――…
「相手が悪かったのぉ」
短剣よりも早く、男の大剣は刺客を切り裂いていた。
「……なっ!」
まさに驚きの光景。
男の背ぐらいある大剣をどう素早く振れば、短剣の速さに勝てるのか。
「そこの若造よ、大丈夫か?」
男は剣についた血を拭き取りながら、地面に膝をつけたままの俺に話しかけてきた。
刺客に殺られそうなところを助けてもらったとは言え、この男が俺の敵ではないという確証はない。
しかし、目の前に立つこの男から刺客のような殺気も敵意も感じられないと言う事は、取りあえず敵……では無いようだ。
「…助かった。礼を言う」
「なに、余が勝手にした事ゆえ、お主は気にするでない。それよりも、少し後ろを見せてみなさい」
「…?」
不思議に思いながらも、男の言葉通り背を向けると―――…
「痛むじゃろうが我慢せい」
「い”…っ!!」
矢が刺さった時と同じぐらいの激痛に、思わず口からうめき声が漏れる。
「うぬ、こんなもんじゃな」
「〜…っ!!痛いじゃないか!!」
「そりゃ矢を抜いたんじゃから、痛くないわけがなかろう。取りあえずは応急処置をしたが、どうじゃ?」
「……」
男がした応急処置のおかげか。
最初の時と比べると、だいぶ楽になった感じはするが―――…
「……痛い」
「ははっ、それぐらい我慢せい!」
それでも痛いものは痛い。