暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
「何を驚いておる。お主の目的も同じじゃろうが。余は帝国の行く末を案じており、お主は帝国を変えたいと思っている。…利害は一致しよう?」
確かに利害は一致する。
攻め落とすよりも新しい皇帝を即位させた方が他国からの非難も少なく、また国民もまとめやすい。そして、何より皇帝と繋がれば外部からでも操りやすい。
しかし―――…
「何故そこまで帝国を気にする?他国に居住していても、皇帝になれなくは無い。皇族以外が即位した事例もある」
この男には色々と気になる点が多すぎる。
帝国を攻め落とす予定という言葉も、我が国という言葉も。
まるで、どこかの王であるかのような――――…
「自己紹介がまだじゃったな。余はシュレイド・アビテカル・レイクロー。帝国の隣にあるレイクローの国王じゃ」
「国王……だと?」
しかし、それにしては護衛の騎士などは見当たらないが。
「あぁ、今回は一人で来たのじゃ。偵察に大勢で動けば怪しまれるじゃろうから」
確かにそれはそうだが、じゃあ本当に――――…
「余の指導は厳しいが代わりにお主が生き抜く術を教えよう。そして、お主が皇帝になれるようレイクロー国王として協力する事をここに誓おう。後はお主の意思じゃが、王国に来てくれるか?」
王国の協力を得れるなんて願ってもない。
どのみち一人では成しえないし、腐敗しているとは言え帝国の武力は健在。
今の俺のままではあまりにも無力すぎる。
「…俺に生き抜く術を教えてくれ。もう惨めに逃げ回らないよう、この手で誰かを守れるように」
この国を変えられるのなら、例え悪魔にだってこの心臓を捧げよう。
武力が帝国を制しているのなら、俺はその上をいく武力で貴族共をねじ伏せよう。
他人からの愛などは必要ないし、俺も誰かを愛するつもりはない。
これから茨の道を進む俺には、きっとそれぐらいが丁度良い。
「さぁ、行こう。レイクロー王国に」
相変わらず穏やかな口調の男、シュレイドがそう言って歩き出す。
俺は固く決意した目で皇城の方を一度振り返ると、前を歩くシュレイドの方へ駆けて行った―――…。