暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
どんな処罰を下されても受け止める覚悟を決めていた私に告げられたのは、予想もしない衝撃的な言葉だった。
「処罰を下すつもりはない」
「……えっ?」
騎士達も見ている中、皇帝としての威厳を保つ為にも私を処罰するとばかり思っていた。
もちろん陛下が噂で聞くような残虐的な方ではない事は分かっているが。
「この話は終わりだ。馬車に乗ろう」
そう言って陛下が馬車に乗り込んだ事で、この話は打ち切られてしまった。
***
《リードside》
帝国へ戻り、早三日が過ぎた。
ヴィスタン王国で起きた出来事は瞬くに各国へ伝わり、それは国内でも噂になっていた。
「最近、面白い噂が流れているそうですね?」
ニヤニヤと不快な笑みを浮かべながら執務室に入って来たのは宰相のファンだった。
「入室を許可した覚えはないが」
「一応ノックはしましたよ。…あぁ、悪いが少し席を外してくれるかい?」
入口付近に控えるメイドへそう声をかけると、ファンはいつものようにソファーへ腰を下ろした。
「ヴィスタン王国が一夜にして滅んだのは、皇帝の愛する女性に危害を加えたからだ…と。どこに行っても、その話ばかりだ」
人払いを済ませ、何を言うかと思えば。
「実に下らん話だ。まさか宰相とあろう者が、その様な噂を信じてる訳ではあるまい?」