暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》

「余はそなたに処罰を与えるつもりはない。そう言ったはずだ。それに、そなたから頭を下げられるのはあまり好きではない」

陛下はそう言うと、どこか気に入らなさそうに目を逸らした。

相手は皇帝だから頭を下げて敬意を示すのは当然のこと。

けれど、それが嫌だと言われたら……従わざるを得ない。

本当はこのまま頭を下げて許しを請いたいところだけど。

「…分かりました」

取りあえず、私をここへ呼んだのは、処罰を与える為ではないって事で良いのよね…?

けど、それ以外に私を呼ぶ理由って、一体何なのかしら。


「話を戻すが、我が国はヴィスタン王国を征服した。絶好のタイミングだったとは言え、国を滅ぼした以上、それなりの理由が求められる」


…まぁ、当然よね。

大国とは言え、理由も無しに征服すれば国のイメージは悪くなる。

仮に戦争が起きたとしても、帝国が負ける事などまずないとは思うけど、そういった恐怖の積み重ねにより周辺諸国から危険な国と認識されてしまったら…。

同じ意見を持つ国同士が協定を結び、帝国を倒そうと進軍してくる国も出てくるかもしれない。

負ける事が無いと言っても、始めに犠牲になるのは国境付近に暮らす人達だ。

皇帝と言えど、安易な気持ちで戦争を選んでほしくない。

「ところで、最近この様な噂が流れているそうだ。“ヴィスタン王国が一夜にして滅んだのは、皇帝の愛する女性に危害を加えたからだ”…と」


………え?


「知っていたか?」

「い…いえ、今初めて耳にしました…」


その噂の…愛する女性って、まさか私の事を指してる訳じゃないのよね…?

絶好のタイミングだったと陛下は仰られてたけど、滅ぶきっかけとなったのは本当の事だし。

あ、もしかすると……。

陛下が女性に囲まれた時に私をいかにも愛しているような演技を為さっていたから、それで周囲は勘違いしたのかもしれない…。


「他国だけでなく、帝国内でも広まっている噂らしいが…ここまで広まってしまうと、正直消すのも難しい」


当然だ。

帝国内だけならまだしも、他国で広まってしまった噂を消すのは非常に難しい。

そもそも噂の出処を叩かなくては、次から次へと噂は広まってしまう。

頭を下げたい気持ちでいっぱいだけど、先程陛下から頭を下げられるのは嫌いと言われた手前、するわけにもいかないし…。

そうだ…!!!


「陛下。噂のせいでご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、この件は私に任せて頂けないでしょうか?」

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