暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
……えぇ!?いや、ちょっと待って。そんな……
「私は妃になれるような器ではございません!身分もそうですし…何より……」
私はただひっそりと、平凡に生きたい。
命を脅かされる事もなく、安全な場所で。
その為に、私はここへ来たの。メイドとして。
「身分は気にせずとも良い。公表せずとも、周囲は勝手に想像する。もし聞かれたら笑って受け流せば、それ以上は聞いてこないはずだ」
「で、ですが…あの…妃になったとしても、陛下の顔に…いえ、帝国の汚点になるだけです」
「問題ない。妃教育として有名な講師達を用意しよう」
……妃になりたく無いって、どうやって伝えたら良いんだろう。
遠回しな言い方では伝わらなかったし、自分が側近メイドのアニーナだと言うわけにもいかないし…。
「陛下は…知り合いもいない平民の私が、この貴族社会で生き抜けると本当に思っているのですか…?」
後ろ盾もない平民の私が妃になんて。
「…思っている。何せ、そなたはマテオ・マテラのグラスを見抜いた」
「…!」
その話って…。
「最近では偽造品が出回っているようだな。マテオ・マテラの作品は実際に見た者にしか分からない」
陛下はあの時、その場には居なかったはずなのに誰からその話を…。
「特に偽造品のレベルが高く、本物と見分けるのは難しい。しかし、そなたはグラスの特徴や入手方法を完璧に把握していた」
「それは…一度見る機会があったからで…」
「まぁ、それは良い。そなたは知識だけでなく、権力者を前にしても臆しない強い心を持っている。それ故、余は生き抜けると判断した」
……確かに私は少しの事では動揺しない。
だって、あの日以上に怖い事は無いもの。
「こちらとしても、妃になって貰わなければ困る。それでだが、そなたに提案だ」
「提案…ですか?」
「そなたが数ヶ月…そうだな。噂がある程度収まるまで妃になってくれるのであれば、終了後は解放してやろう。城から出て、元の生活に戻って良い」
少しの間我慢すれば、元の生活に戻れる。
それは、かなり大きい。
解放という事は、干渉してこないという事だろうし、家族が人質にとられる事もないはず。
何にせよ、メイドに戻れるチャンスでもある。
「噂が落ち着いたら、本当に解放してもらえるのですね?」
「あぁ。妃として振る舞う事が条件だが、それが済めば解放しよう。これが契約書だが、どうする?」
「………」
ここに来た時から嫌な予感はしていたけど、それがまさか妃になる提案とは思わなかった。
それも自由を求めての契約だなんて。
けど、これで解放されるのなら……。
「…契約に同意します」
私は妃として振る舞ってみせる。