暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
リリアン・シェパード
「アニ様…」
カーテンを締め切った暗い部屋に、私…リリアンのか細い声が静かに響く。
自らこの様な場所まで来て下さったと言うのに、私はどうしてもアニ様に会う事が出来なかった。
自分でもどうしたら良いのか分からない。
ただ私を悩ませているのは、床に散らばった何通もの手紙。
全て実家から届いたもので、差出人は伯爵であるお父様からだった。
『久しぶりに元気な顔が見たい。一度、家に帰ってきなさい』
メイドになると告げた時、関心の一つも示さなかったお父様から届いた珍しく優しい文書。
六つ歳の離れた兄と、三つ下の妹。そして、五つ下の弟の中で一番の出来の悪い私は、伯爵家の皆からいつも疎ましい存在として蔑まれていた。
メイド達からも居ないものとして扱われ、いつも辛くて。
皆を見返したい。凄いねと言わせたい。
初等部を卒業した後にお城のメイドとなったのは、そんな気持ちからだった。
例え希望していた側近部に入れなくても、働いてさえいれば可能性はある。
私は絶対に妃になってやる。
…そう。全ては愛されたいその一心だった。