暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
メイドはそう叫ぶと、鋭い短剣を私へ向けて振り上げた。
逃げなきゃ。
そう思うのに、体が動いてくれない。
目の前の光景が、まるであの時のようで。
死の恐怖が私を襲う。
「死ねぇぇぇえ!!」
―――グサッ…。
鈍い音がその場に響き渡り、真っ赤な血が地面に落ちる。
「キャァァァア!」
「早くその女を捕まえろ!!!」
慌ただしく駆け寄る騎士の足音と、メイド達の悲鳴。
皆が予想しない出来事に混乱する中、私はただ呆然と目の前の光景を見つめていた。
「何で…」
そこには、血を流し苦痛の表情を浮かべるリリアンの姿があった。
「アニ…様」
「何で私を庇ったりなんかしたの…!」
困った事に血が止まる気配は無い。
このままだと出血多量で命が危ない。
「私は…アニ様の事…が…大好きなの…です。止めれて…良かっ…た」
「だめ!リリアン…!」
ゆっくりとリリアンの瞼が下がっていく。
ここで力を使えば、私に不思議な力があると周囲に知られてしまうかもしれない。
魔女だと恐れられ、最悪捕らえられるかもしれない………けど。
今は悩んでいる場合ではない。
リリアンは私を守ってくれた。
それなら次は私が助ける番だわ。