暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
決断
*
気づくと、そこは真っ暗闇だった。
辺りを見渡しても何も見えなくて、いくら歩けど出口に辿り着かない。
そもそも、私は何でこんなところにいるんだっけ?
思い出そうとするも、何一つ浮かんでこない。
何か大切な事を忘れているような気がするのに。
「…まぁ、いっか」
次第に私は考えるのを止め、再び歩き始める。
どこまでも続く暗闇に疲れ、もう一度足を止めた時だった。
『……ニ』
どこかから声が聞こえてきた。
「誰?」
問いかけても返事は来ない。
『ア…ニ…』
先程から聞こえていたのは私の名前で、その声は何だか切ない。
確かに聞いた事のある声なのに、どうしても思い出せない。
「ねぇ、誰なの?」
『目を…覚ますんだ』
「え?」
目を覚ますって、私は起きているのに。
『こっちだ…』
急に前が眩しくなる。
闇に照らされた光は何だか暖かくて、私の足は自然とそっちの方向へ動き出す。
この声が誰なのか分からないけど、私はこの人に会いたいと思った。