暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
「…ん、あれ…?」
目を開けると、そこはサファイア宮にある私の寝室だった。
どのぐらいベッドの上で寝ていたのか、不思議と頭の中はスッキリしている。
握られた手を辿っていくと、そこには私の会いたかった人がいた。
「…陛下」
思い出した。あの時の声は確かに陛下だった。
ここでずっと私の名前を呼んでくれていたのか、椅子に腰を掛けた陛下はベッドに顔を埋め眠っている。
握られた手を離したら流石に起きるかと思ったが、余程疲れているのか、陛下が起きる事は無かった。
「取りあえず風邪を引かないように…」
近くからブランケットを手に取ると、ソッと陛下にかぶせる。
メイドの頃は避けていたから関わりすら無かったのに、不思議なものね。
こんなにも陛下と近くなるなんて。
暴君だと言われている陛下だって無防備に眠る事もあるし、意外な事で動揺したりもする。
完璧だと周囲から思われていても、皆と同じように普通の人間だもの。
「私だけが知っていれば良いのに…」
陛下の元から離れたいと思っているのに、普通のメイドに戻りたいと思っているのに。
そんな事を思ってしまう自分に、思わず苦笑してしまう。
仮の妃であるのに、ここまで心配されると勘違いしてしまいそうになる。
私は陛下の特別なんじゃないか…って。