暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》




妃が消えて一ヶ月。

始めは城内を歩けばあちこちから聞こえていた妃の話も、今では誰もしなくなった。

まるで以前の生活にやっと戻れたような、穏やかな日々。

私が望んでいた事なのに、何故だろう。

時々、心にぽっかり穴が空いたような喪失感に襲われる。


「あれ?いつものお菓子じゃないんだ」

「うん。たまには違うお菓子にしようかと思って」

甘さ控えめのガトーショコラ。

あのパーティーに出ていたケーキを再現したものだ。

いつも同じお菓子だと流石に飽きると思って。

「これを陛下にお願い出来ますか?」

準備が終わり、いつものように違う人に頼もうとすると。

「え、遠慮しておきます…!最近、陛下の機嫌が悪いようですし」

「私もちょっと…。八つ当たりされても困るしね〜」

困った事に誰も行ってくれない…。

いつもなら誰が行くか取り合いになるのに。

「仕方ない…。私が行くか」

本当は陛下に会いたくないけど、これも仕事だ。

変装してるし、きっと陛下も気づかないだろう。


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