暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
*
妃が消えて一ヶ月。
始めは城内を歩けばあちこちから聞こえていた妃の話も、今では誰もしなくなった。
まるで以前の生活にやっと戻れたような、穏やかな日々。
私が望んでいた事なのに、何故だろう。
時々、心にぽっかり穴が空いたような喪失感に襲われる。
「あれ?いつものお菓子じゃないんだ」
「うん。たまには違うお菓子にしようかと思って」
甘さ控えめのガトーショコラ。
あのパーティーに出ていたケーキを再現したものだ。
いつも同じお菓子だと流石に飽きると思って。
「これを陛下にお願い出来ますか?」
準備が終わり、いつものように違う人に頼もうとすると。
「え、遠慮しておきます…!最近、陛下の機嫌が悪いようですし」
「私もちょっと…。八つ当たりされても困るしね〜」
困った事に誰も行ってくれない…。
いつもなら誰が行くか取り合いになるのに。
「仕方ない…。私が行くか」
本当は陛下に会いたくないけど、これも仕事だ。
変装してるし、きっと陛下も気づかないだろう。