暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》

執務室へ向かうとドアをノックする。

久しぶりにここへ来たからか、少し緊張してしまう。

―――コンコンコン。

「誰だ?」

「め、メイドのアニーナです。コーヒーをお持ち致しました」

不機嫌そうな陛下の声。

入るなと言うような圧を感じるが、ここで引き下がる訳にはいかない。

「コーヒーか…。入れ」

しかし、断られる事はなく、私はドアを開けると中へ足を踏み入れた。

「失礼致します」

沢山の書類が陛下の前に積まれている。

心なしか陛下が疲れているように見えるのは、私の気のせいだろうか?

本当は直ぐ置いて、この場から退散しようと思っていたけど…。

「少しはお休みされて下さい…。お仕事ばかりされてますと、お身体を壊すかもしれません…ので」

流石にちょっと見過ごせない。

生意気なメイドだと思われるかもしれないけど、休息は必要だ。

「面白いメイドだ。余も休憩せねばと思っていたところだ。コーヒーは有り難く頂こう」

「い、いえ…。それでは失礼致します」

長々と話していたら、流石に私がアニだと気づかれるかもしれない。

それに…決意が揺らぐ前に、ここから立ち去らないと。

陛下に向かって頭を下げると、次こそ私は部屋から出て行った。


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