暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》




「仕事は捗ってるか?」

書類を抱えながら執務室に姿を現したのは、宰相のファンだった。

最近は大量の仕事と共に、よく執務室へ来るようになった気がする。

「いつも通りだ。そんなに仕事を持ってこなくてもよい」

「はははっ。お前には仕事をしてもらわなければ、困るんだよ」

「感傷に浸る余に働けと言うのか」

あの日、眠っていたはずのアニが忽然と姿を消した。

手を握っていたはずなのに、起きたときにはアニの姿が無く、城中を探しても見つからなかった。

始めは誘拐を疑ったが、皇帝である俺が傍で寝ているのに狙わないのは可笑しい。

それにあの事件後、怪しい人物が他に居ないか改めて調査をしたので紛れ込んでいる可能性は極めて低い。

そうなれば、アニ自ら姿をくらましたという事になるが…何故そのような行動に出たのか。

考えても未だに分からないままだ。


「そう言えば、あのメイドはやっと休暇から戻ってきたようだな」

「あのメイドと言うと、お前が待っていたバタークッキーのメイドの事か?」

「今日はバタークッキーでは無かったが、そのメイドだ」

実に面白いメイドだった。

他のメイドのように怯えるのではなく、面と向かって言うところが。

不思議にもアニと重なった。

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