暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
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「……おい。これは何だ?」
仕事に追われる中、執務室に運ばれてきたのは、いつもと何も変わらないコーヒーとお菓子。
「ど、どうかなさいましたか!?」
偶然、その場に居合わせた官僚の一人が恐る恐る声をかけてくる。
手には先程運ばれてきたばかりのコーヒーカップ。
「これを淹れたのは誰だ…?」
只ならぬ雰囲気に、その場は一瞬にして凍りつく。
淹れた人物を問うようにその場にいた一人ひとりに鋭い視線を向けるが、萎縮しているのか誰も口を開こうとしない。
諦めたようにため息をつくと、持っていたコーヒーカップをソーサーの上に戻す。
「直ぐにいつもの者に、淹れなおすように指示しろ」
「は、はい…!」
近くにいた官僚は、返事をすると直ぐさま部屋から飛び出した。
午後から向かう予定の資料に目を通していると、
コンコンコンッ。
「失礼致します」
先程の官僚―――…ではなく宰相のファンが、執務室に入って来た。
「メイド管理を任されているパーキー殿に確認したところ、その者は休暇中との事だそうです」
「休暇だと?」
「はい。後で陛下へ提出するつもりだったとの事で、つまり忘れていたのでしょうね」
淡々と報告をしながら、ファンは飽きれたようにため息を吐く。
「報告を怠った奴は直ちに別の部署へ移動させろ。メイド管理は新たにグレバーに任せる事にする」
「かしこまりました。コーヒーは別の者に淹れなおさせますか?」
「その件はもうよい。飲む気が失せた」
再びため息をつくと、陛下は未だ部屋に残っていた兵士や官僚達へ席を外すよう命じた。