暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》


「ほんと最近は物騒よね〜。それよりも、アニーナはもう少し見た目を気にしたらどうなの?」

あまりにも酷い私の容姿に、アイルさんは思わずため息をついた。

「そんなんじゃ、平民の男ですら振り向いてもらえないわよ!」

肩下まである金髪を三つ編みにし、瞳の色を隠すような厚みのある大きな眼鏡。

食器棚のガラスに映るその姿は、まさに…地味子だ。

「別に私は容姿とか興味ないから…」

「貴女…本当に女なの!?」

『あり得ない!』とアイルさんが叫ぶ。

私だって年頃の女だ。

本当はお洒落だってしてみたいし、こんな格好はしたくないけど、そう出来ない理由が私にはある。

カチャ…。

砂糖も何も入っていないコーヒーが出来上がると、甘さを控えたバタークッキーと一緒に丸トレーの上に置く。

近くで談笑を楽しんでいる他のメイドへ声をかけると、受け取った本人は喜んでそれを手に持って給湯室から出て行った。

「いつも思うけど、貴女ってほんと勿体ないわよね〜。せっかく陛下をお目にかかるチャンスだって言うのに、他の人へ行かせるんだから」

それを見ていたアイルさんが、呆れたように口を開く。


「興味のない私が行くより、行きたい人に任せた方が、時間を有効に使えるでしょ?」

「貴女ねぇ〜、私達は“選ばれしメイド”なのよ!?その立場を利用しなくてどうするのよ!!」


城に仕えるメイドの中には位があり、部署によって任される仕事も待遇もかなり違う。

特に選び抜かれた極一部のメイドだけが所属出来るその部署は、数多くいるメイドの中でも特に権力があると言われている。

身の回りのお世話や、お茶汲みなど。

直接関わる仕事を任されている事からその部署、側近部は、近衛騎士の次に陛下と近い存在だとされている。


< 4 / 178 >

この作品をシェア

pagetop