暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
「ほんと最近は物騒よね〜。それよりも、アニーナはもう少し見た目を気にしたらどうなの?」
あまりにも酷い私の容姿に、アイルさんは思わずため息をついた。
「そんなんじゃ、平民の男ですら振り向いてもらえないわよ!」
肩下まである金髪を三つ編みにし、瞳の色を隠すような厚みのある大きな眼鏡。
食器棚のガラスに映るその姿は、まさに…地味子だ。
「別に私は容姿とか興味ないから…」
「貴女…本当に女なの!?」
『あり得ない!』とアイルさんが叫ぶ。
私だって年頃の女だ。
本当はお洒落だってしてみたいし、こんな格好はしたくないけど、そう出来ない理由が私にはある。
カチャ…。
砂糖も何も入っていないコーヒーが出来上がると、甘さを控えたバタークッキーと一緒に丸トレーの上に置く。
近くで談笑を楽しんでいる他のメイドへ声をかけると、受け取った本人は喜んでそれを手に持って給湯室から出て行った。
「いつも思うけど、貴女ってほんと勿体ないわよね〜。せっかく陛下をお目にかかるチャンスだって言うのに、他の人へ行かせるんだから」
それを見ていたアイルさんが、呆れたように口を開く。
「興味のない私が行くより、行きたい人に任せた方が、時間を有効に使えるでしょ?」
「貴女ねぇ〜、私達は“選ばれしメイド”なのよ!?その立場を利用しなくてどうするのよ!!」
城に仕えるメイドの中には位があり、部署によって任される仕事も待遇もかなり違う。
特に選び抜かれた極一部のメイドだけが所属出来るその部署は、数多くいるメイドの中でも特に権力があると言われている。
身の回りのお世話や、お茶汲みなど。
直接関わる仕事を任されている事からその部署、側近部は、近衛騎士の次に陛下と近い存在だとされている。