暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
その為、毎年多くの人が側近部の採用試験に受験するが、難関と呼ばれる試験に合格する者は年に一人か二人。
合格者が出ない年もあり、側近メイドは“選ばれし者”だけが就ける”特別な部署“と言われているが、私はその言葉があまり好きではない。
元々権力が欲しかった訳でも、陛下の目に留まりたかった訳でもなく。
私が側近部に入ったのは、只々生きる為だったから。
「コーヒーも淹れ終わったし、私はそろそろ違う仕事に移るね」
「えー!?もう少しゆっくりしていけば?」
話足りないのか、給湯室から出て行こうとする私を、不満げな顔でアイルさんが引き留めようとする。
アイルさんの話はいつも興味深いけれど、用事が無いのにいつまでも給湯室にいる訳にはいかない。
「さっき別の仕事頼まれちゃったから、また今度時間がある時に聞くね」
「仕方ないわねぇ…。面白い話がたくさんあるんだから、約束よ?」
私の言葉に気分を良くしたのか、アイルさんは引き留めるのを止め、私は給湯室から出て行った。