暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
メイドとしての礼儀作法は血が滲むほど努力し学んできたが、貴族の礼儀作法はこれまで必要がなく学んでこなかった為、
どれから使っていいのか分からない。
えっと、真ん中から?それとも端から使うべき?
確かこうゆう時は、相手を見て学べ……と先輩が言っていた気がする。
そんな事を思い出しながら、私は陛下の方へチラッと視線を向けた。
――カチャ…カチャ…。
見よう見まねで端からフォークとナイフを手に取ると、目の前に置かれた料理を口に運ぶ。
……っ!お、美味しい!!
口いっぱいに広がる上質なお肉の旨味と柔らかな感触……。
城下町の市場で仕入れているだけあって、野菜は新鮮で美味しい。
手を止める事なく夢中で料理を口に運ぶ。
「料理が口に合うようだな」
「…あ」
すっかりこの方の存在を忘れていた。
「ここでの料理は口に合わないかと心配していたが、その様子だと…杞憂のようだな」
「……っ!!」
恥ずかしさのあまり、思わず顔が赤くなる。
貴族の礼儀作法を知らないとは言え、このようにガツガツと料理を口にするのは少し行儀が悪かったかもしれない。
「…失礼致しました」
「何を謝る必要がある?」
「いえ、その…私の行儀が悪かったので」
口ごもる私に陛下は顔をキョトンとさせた。
「…へ、陛下?」
暴君などと言われている陛下が、こんな表情を見せるなんて何だか珍しい。
「変なところで気を遣うのだな。普通、平民であれば行儀など気にしないものかと思っていたが」
……あ。
貴族ならともかく、平民は基本的に礼儀に疎いところがある。
もちろん礼儀正しい平民も中にはいるが、そもそも礼儀作法を学ぶ機会が少なく、学校でも詳しくは教えてくれない。
学校が教えるのは、生活するうえで大切な必要最低限の礼儀作法ぐらい。