暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
私が向かったのは、“赤の会議室”と呼ばれる大きな部屋だった。
深紅の絨毯が特徴的で、中央には十二人が顔を向かい合わせて座る事が出来る長方形の長テーブルがある。
個人的には、絨毯の色にちなんで名前が付けられたのではないかと思っている。
城内には会議室が五つあり、聞いた話では朝の会議はこの部屋で行ったそうだ。
―――コンコンコンッ。
「側近部所属のアニーナと申します。会議室の掃除へ参りました。失礼致します」
一応、ドアの前で声をかけて中へ入る。
お昼の時間だからか、流石に会議室には誰の姿も見当たらなかった。
水が入ったバケツでタオルを濡らし、さっそく掃除を開始する。
先ずは机からして、それから椅子、窓へと、順に掃除をしていく。
最後に、絨毯にゴミが落ちていないか視線を向けた時、
「……ん?なにこれ」
明らかに模様ではない、恐らくシミと思われるものを発見した。
それが何のシミなのか分からないけれど、取りあえず落とそうと濡れた雑巾で染み抜きを試す。
………が、中々上手くいかない。
違う方法も試してみるが、それも違ったみたいでシミは更に広がってしまった。
「ん~……どうしたら落ちるんだろう?」
一応、思いつく限りの方法は試した。
それなのに落とせないシミとは…。
「いや~、まさか忘れるなんて!」
開いたドアから入って来たのは、黒ひげを生やした体格の良い官僚の男性だった。
「……おや?」
男性は私の存在に気づいたようで、資料を手に取るとこちらへ近づいてきた。