暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
所々に設置されたロウソクの灯りが、薄暗い廊下を照らす。
夜中に部屋を抜け出し御不浄へ向かう事はこれまでにあったが、使用人用居室棟とはまた違った不気味さが漂っていた。
無事に厨房へたどり着いた私は、暗闇に慣れ始めた目で冷蔵庫へと向かった。
「ハムと野菜……あとパンはどこかしら」
厨房に立ち寄る事があまりない為、どこに何が置いてあるのかさっぱり分からない。
「あ、これね」
少し離れた木製棚の中からパンを探し出すと、先程冷蔵庫から取り出したハムと野菜を挟む。
それを、両手で掴んで口に入れる。
「…美味しい!」
焼かなくともハムはジューシーで、野菜は新鮮。
夢中でそれを食べ終えると、せっかくなので使用人用居室棟へと向かう事にした。
私の部屋の前には、あの日グラントに送るよう頼んだ荷物が置かれてあった。
ウイッグも眼鏡も、言った通りちゃんと入ってる。
このままドアの前に荷物を放置させておくわけにはいかず、懐にいれておいた鍵を取り出すとドアを開けた。
机の上に置いてあった手燭(しゅしょく)にマッチで火をつける。
帰省してからまだ日が浅いのに、所々埃が被ってある。