暴君陛下の愛したメイドⅠ《修正版》
確か宰相様…いえファンさんは、打ち合わせで忙しいはずなのに。
「打ち合わせなら、先程終わりました」
「そうだったんですね…」
見透かすようなファンさんの言葉に内心ドキッとする。
「お相手がおらず困っている様子ですね。宜しければ私がお相手させて頂きますが?」
「え!」
思いもよらない提案に思わず大きな声が出る。
「しかし、ファンさんは他にやることがあるのでは……」
「その事ならご心配いりません。手が空いておりましたので、むしろ光栄でございます」
「…そう?ならお願いしても宜しいですか?」
「はい。かしこまりました」
にこやかに私の前に差し伸べるファンさんの手を取ると、ダンスを再開する。
講師の先生としか踊った事がなかったけれど、これは分かる……。
ファンさんのリードは凄く上手だ。
例えリズムが崩れそうになっても、さり気なくリードで修正してくれるからスムーズに踊る事が出来る。
講師の先生は場数をこなせば上手になると仰っていたけど、ファンさんはダンスの経験が豊富なのかしら?
「どうかされましたか?」
「え…あ、いえ。ファンさんはダンスがお上手だと思いまして…」
「一応、私も貴族ですからね。執務が無ければもっと外へ出かけられるのですが」
ファンさんは冗談交じりにそう笑った。
確かロンザード侯爵家は元々宰相一家ではなくて、他の一族が宰相職を代々引き継いでいたはずだけど……
ファンさんは何故、宰相になろうと思ったのだろう。