【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
目の前に立つと、驚く程背が高い。思わず見上げる格好になる。怖そうな見た目だが、それに反して人を見つめる瞳は優しいものだった。
「例の弁当の彼女か?」
「は……?」
訳の分からぬ事を言われ首を傾げていると、潤が慌ててこちらへやってきて飯田さんの口を塞ぐ。
「余計な事言わなくていいから!」
撮影は予想に反して和やかに行われた。
潤の言っていた通りプロのメイクさんである奈々さんにヘアセットとメイクをしてもらったらまるで別人のような自分が鏡の中にいる。
潤も確かにメイクは上手だったけれど、奈々さんは更に上手かった。というか山のように持ってきていたメイクボックスの中身を見て驚いた。色味ひとつ取ってみても真剣に考えているその姿を見て、プロだなぁと思う。
そして黒いワンピースを着せられて、撮影はスタートした。個人ショットからのスタートだった。
飯田さんはカメラを持てばさっきと打って変わり、ガチガチになってしまっている私を笑わせてくれた。
「いいよッ!好きに動き回っちゃって」
「好きに…って言われても…」
現場スタッフの視線が一斉にこちらに集中して、好きに動けそうもない。笑顔さえ上手に作れずに、笑おうとしてもどこか引きつってしまう。
モデル経験なんて無いのよ…。ポーズの取り方さえ分からない。
けれどガチガチに固まってしまっている私に対し変顔をして、思わずそれに笑ってしまった。