【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
え?何それ全然聞いてない。
ぎろりと潤を睨みつけると、潤は逃げるように飯田さんの後ろに隠れた。
私と潤の写真が渋谷のビルのビジョンに映されるですって?!
飯田さんの後ろに隠れた潤は少しだけ顔を出して、いつもと変わらぬ笑顔で悪戯に笑う。その可愛らしい笑窪がやけに憎らしい。
「だって何も聞いてないわ!モデルをやるとは言ったけど、カタログ撮影って話だったじゃないの。
それが渋谷ですって?沢山の人が行きかう場所に私の顔が晒されるって?!」
帰り道。潤の車の中で文句は止まらなかった。それを聞き流す振りをして鼻歌なんか歌い、機嫌が良さそうにハンドルを握る。
やっぱりこいつをぶん殴りたい。王子様だなんて目の錯覚だったのだ。こいつはとんだペテン師に違いない。大体お父さんが見たらなんて言われるか…。
と、モデルを引き受けた以上潤の会社のカタログには載るのは覚悟の上だった。それは今更だ。
今更…お父さんの顔色をまだ窺って生きている自分にうんざりしてしまう。
「その割には嬉しそうに写真プリントアウトして貰ってるじゃん。しかも俺とのツーショットばかりッ。
確かにあれはお似合いだったよなー」
「自分で言うのはどうかと思うけれど、潤は本物の王子様みたいだったわ。」
実はビジョンに載る事はそこまで怒ってはいなかった。
それに撮影はとても楽しかったし、スタッフの人たちも皆良い人だった。久しぶりに俊哉に会えたのも嬉しかったし、メイクの奈々さんとは歳が近い事もあり仲が良くなって、連絡先も交換した。
プリントアウトした写真も何枚も貰った。こんな経験は早々ないだろうと、記念に。潤と写っている物ばかり選択したのは無意識だった。