【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
「潤くんとの結婚どころか交際も認めない」と言い放ち。
残されたのは私と母と大地。静まり返った空間で、母が慌てて私の方へ駆け寄ってきて頬に触れる。どこまでも儚くて弱々しい。こんな争いがあっても口のひとつ挟もうとしない、優しい女性だった。
「菫……大丈夫?」
頬を撫でる母の手のひらは、幼い頃と変わらずに温かかった。
「大地、冷凍庫からアイスノンを持ってきて頂戴」
「お、おう」
冷凍庫からアイスノンを持ってきた大地が母に渡すと、母はそれを私の頬へ充ててくれた。
全然痛くなかった。殴られる事くらい平気だった。でも潤を侮辱するような言葉だけが許せなくて、私は酷く興奮していた。
また、家を出れば良い。父になんて認められなくて平気よ。私はもう25歳だし、大人だ。親の許しが無くても好きな人と付き合って、結婚だって出来る。
もしかしたら勘当されるかもしれないけど、それも大した問題ではない。いざとなれば篠崎リゾートと父と関係なく生きる事だって出来る。
けれど私の頬を抑える母は今にも泣き出しそうな悲しい顔をしていた。
大地はバツの悪そうな顔をして、椅子に寄りかかる。
ゆっくりと母が喋り始める。
「菫……お父さんを余り悪く思わないで…」
「何だよ、お母さんまでー…どー考えてもあの親父が悪いだろーよ。女を殴るなんて信じられないね。
大体あの人はねーちゃんには厳しすぎだよ。つーか潤くんに厳しすぎ。俺も昔からお父さんには潤のようになるなって言われ続けてきたもんね、それの何が悪いのさ……」