【完】Dimples 幼馴染のキミと僕

「そうだよ。だってお父さんは本当は大学院まで行って研究をしたかった人でしょ?
でも高校から付き合ってたお母さんと結婚するために自分の夢は諦めて起業したんだから。研究職なんて生活が安定しないからね。
相当苦労したと思うし、家族を養ってきたお父さんは尊敬するけどね」

そんな話聞いた事もなかった。

父は望んで今の立場であると、信じて疑わなかった。自分の夢の話すら口にするような人ではなかったから。

そんな話を聞いてしまったら、父を憎めなくなってしまうではないか。小さい頃から背中を見つめてきた。仕事の愚痴ひとつこぼさずに、朝から夜遅くまで働き続けてきた。

そのお陰で私と大地は何ひとつ苦労した事がなく、それどころか普通の家庭よりは裕福に暮らしてきたとは思う。

不自由なく素晴らしい物を与えられ、それが当たり前と思って生きてきたんだ。

「でもそれとねーちゃんの結婚の話は別だ。
ねーちゃんは自由に人を好きになる権利があるし、人生はお父さんの物でもない」

やっぱり大地は大人になった。私よりよっぽど物事を深く考えている。私はと言えば父に夢がある事すら知らなかった。

用意された道を歩いて、用意された洋服を着て、安全に歩いてこられたのは父が私に危ない道を歩かせないように守って来てくれたからだ。

「上がって行く?私の家じゃないけど」

マンション近くに車を停車させ大地にそう言うと、首を横に振った。


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