【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
これは仮縫いである。最終的にはミシンで縫っていく。しかしこの仮縫いの工程が1番好きだったりする。仮ではあるが形になっていく。そしてそれを菫に着せる瞬間を想像する。
このドレスは菫にぴったりだと思う。体の形がはっきりと出るマーメイドライン。けれど首元は美しいレースで覆われていて、長い手が綺麗に出るデザインになっている。
スワロフスキーやパールは歩くたびにキラキラと揺れるだろう。それで美しい模様を描く。
…ドレスの本体を造るよりもそれを飾る装飾の方がよっぽど時間がかかりそうだが…彼女がそれを受け取った時の顔を想像するだけで愛しくなってしまう。
「ふ~肩凝った~」
深夜1時過ぎ、カーテンの隙間から見える月を見ながら床に寝そべる。
結婚か。
今まで考えた事がなかった。人並みには恋愛経験のある俺だったが、誰と付き合っても結婚とまでは考えがいかなかった。
きっとどこかであの幼い頃の約束がいつも頭の中にあったからだろう。片時も菫は俺の頭の中から離れなかった。
一緒に一生暮らして行く事に不安はない。それは良く知る幼馴染の特権でもあるだろう。俺は菫の事はよく知っている。
「気が強くて絶対に泣かなくって…」
「真面目で頑固で実直で…」
「緊張屋なのにいざとなったら肝が据わっていて」
一針一針糸を通していく度に、過去の記憶が蘇ってくる。
そして愛しさがこみ上げる。
「でも………本当は両親想いでとても優しい子
よし、仮縫い完成。俺は天才」