【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
1.菫■幼馴染と淡い春■
1.菫■幼馴染と淡い春■
篠崎 菫。25歳。
菫という名は花をこよなく愛する母がつけた名前。
私が産まれた4月に、道端で咲いていた青に近い深い紫色の花に感銘を受けたからだそうだ。
花言葉は「謙虚」「誠実」「小さな幸せ」等。道端や草陰にひっそりと花を咲かせる、控えめで奥ゆかしいスミレの花にはにぴったりな花言葉ではある。
謙虚で誠実な子に育って欲しい、という母の願いがこめられた名前ではあるが、その通りに育っているか?と訊かれればいささか疑問ではある。
何はともあれ、私は25年前篠崎家の長女として産まれた。
丁度その頃、父は都内で飲食店を経営する会社を立ち上げた。母は普通の専業主婦で経営には一切関わらず、高校時代から付き合っていた父とそのまま結婚したような人だった。
父はロマンチストな人だった。
古くからの日本の書物を愛し、自然を愛し四季を愛する感性の豊かな人だった。家庭内でもいつも物腰が柔らかく、母をとても愛する物静かな人だった。
3年後弟の大地が産まれた頃には篠崎リゾートの事業は少しずつ拡大していって、そして現在…都内でも有数の飲食店グループとして日々会社の規模は大きくなっていっている。
篠崎リゾートはいずれ弟の大地が継ぐのだろう。
大学を卒業した22歳の年に、他の会社への就職を考えた事もあった。
けれど、私は篠崎リゾートの一社員として入社し、そして現在は女性に人気なカフェやレストラン施設の立ち上げに関わっている。
小さい頃の夢は「お嫁さん」その一択しかなかった。
父と母の仲の良い姿を見て育ってきた私にとって、愛する夫を支えるスミレの花のように奥ゆかしい妻は何よりも憧れであった。
けれど父の事業が大きくなるにつれて、私の結婚は私だけの問題でないと考えるようになる。それもまた納得せざる得ない私の生まれた星なのであろう。