【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
菫の父親は篠崎リゾートという都内に何店舗もある会社を経営している。ここ数年でぐっと勢いを伸ばしている会社だ。
会社自体は弟の大地が継ぐのだろう。けれど俺の家とは違い、菫の結婚さえも会社の事情とは切っても切り離せない物だという。
俺はそれが少し変だと思う。菫のおじちゃんもおばちゃんも小さな頃から知っていて大好きではあったけれど、良い人たちであるのは間違いないのだろうけれど、それじゃあ菫は家の中に閉じ込められている王女ではないだろうか。
菫は俺や友達と同じ公立中学に行きたかったのだと思う。けれど、おじちゃんの言う通りに中学からは大学までエスカレーター式の女学校に通っていたし、大学を卒業した後は篠崎リゾートで働いている。
それもかなり優秀らしいが、それが彼女の本当にやりたかった事なのだろうか、とはいささか疑問でもある。
…俺は菫じゃねぇから、菫の気持ちは分かんないけどさ。
けれど時たま菫の生き方を見ていると切なくなる。
彼女が小さな時から好きで、よくふたりでセッションした曲。
ホールニューワールド。ふたりで小さい頃よくその主題歌のアニメを見ていた。そこに出ていたプリンセスの境遇に、菫は少しだけ似ている気がしたんだ。
だから彼女は好んでその曲をフルートで吹くのではないだろうか。…そんなん知らんけど。
「暫くは帰って来るよ。菫も俺に会いたいだろうし」
「馬鹿じゃないの?全然会いたくないんだけど。」
「え~そんなつれない事言わないでよ~。また小さい頃みたいに一緒にアラジン見ようよ~」
「いつの話してんのよ」
「菫ってばアラジンが大好きでさ、他のアニメが見たいって言うのに永久リピートするんだもん」
「そんな昔の話忘れたわ……」