【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
「また来ます」
その言葉におじちゃんは何も返事はしなかったが、菫の写るカタログをジーっと見つめて眉を下げて肩を落としたまんまだった。
家から出たら、暗い藍色の空に星屑がいくつか浮かび上がっていた。
隣り合った家。ずっと暮らしてきた家。沢山の想い出がある。
家と家の隙間。そこから俺と菫の部屋が見えて、窓越しから数えきれないくらい話をした。
互いの庭を走り合って鬼ごっこをして、そこには幼かった舞と大地もいる。
広い庭でバーベキューもした。 そこには俺の両親と菫の両親もいて、皆が笑っていた。 まるで幸せの象徴みたいに――。
ここには思い出がありすぎる。そしてここで育ってきて俺という人間が出来上がった。
分かって欲しい。俺はおじちゃんが好きだ。今更嫌いになれる訳ない。ずっと一緒にいた人だ。だからこそ、俺と菫の事をおじちゃんにも認めてもらいたい。
そして俺以上に菫はおじちゃんが好きに違いない。誰よりも幸せを願って欲しい筈だ。だってふたりはそっくりだ。
’お父さんなんてもういい。’それは意地っ張りな君の本音では、絶対にない。