【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
恋をした事は一度しかなかった。
それも小さい頃の幼馴染への淡い恋心というありがちな物である。
初恋は実らない。あれは本当の話だ。幼すぎた恋心はいつの日にか何も成されぬままどこかへ消化されていってしまった。
されど、忘れえぬ想い。あの頃の優しく淡い思い出が心の奥底で未だに燻ぶっていた。
小さき頃した子供同士の結婚の口約束等、何の意味もなさない事に気づいた今でも――あの春は美しい。
母の影響で始めたフルートは、今でも休日の日課である。
幼き頃はフルート奏者になりたい、という淡い夢もあったものだけれど…。結局音大にも進めずに、趣味に留まる程度になってしまった。
部屋の出窓を開けると、涼しい風が吹き渡りカーテンを大きく揺らす。
私が産まれる少し前に建てられたこの家の隣、翌年に白い家が建てられた。小さな通路を挟んで同じ高さの隣の家の窓が見える。現在はいつも閉め切られている。
フルートを手に持ち、唇に充て音楽を奏で始める。
曲名は「ホールニューワールド」私の大好きな曲だった。
近頃はいつも閉められてた隣の家の窓が突然開き、そこから静かにピアノの音が流れる。
目を閉じ、耳を澄ましてその音色に心奪われる。
私のフルートと重なり合うように演奏される、ホールニューワールド。
そう、昔はこうやっていつだってふたりでセッションした物だ。響き合う音色はあの頃と比べても遜色はない。