【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
「結構良くある話ではあるんですけどね。私達獣医も保護された猫のその先の人生は分からないですからねぇ。
人間と同じように猫ちゃんも傷つくんです。そして心を閉じてしまってこうなってしまうのです。
人間から酷く苛められた猫ちゃんを引き取った夫婦もいたんですが、愛情をもって接しても抱けるようになるまで懐くのに3年かかったって話もありますからねぇ。
どれだけ傷ついたとしても年月をかけて可愛がってあげればその気持ちも通じるんですよ。
けれど小さい時は可愛いし、可愛いってだけで無責任に飼い始めて持て余す事も珍しくないんです」
厄介なものを西城さんから押し付けられそうになっているという訳だ。俺たちは。
けれど菫はゲージ越しにその猫をジッと見つめる。
「大人になってしまっている猫ですから…しかも心に傷を負っている。
とても飼うのは難しい猫ちゃんなのですが…」
俺も菫も動物を飼った事はない。
直ぐに無理だ、と思った。
紹介してくれた西城さんには悪いけれど、この話は断ろう。
そんな心に傷を負った猫、難しすぎる。また時間を置いて、飼いやすい子猫を探す方が良い。
ペットショップで売られているような猫が気に入らないのであれば、保護猫でも何でも良い。
そう言いかけた時だった。
「先生、私猫は飼った事がないのですが…。こんな私にでも飼えるかしら?」
おいおい何を言い出すかと思えば…。
無理だ。絶対に無理。俺も菫も猫は飼った事がない。それをまさかこんな飼いにくそうな子を。
「飼うのは難しくないとは思います。愛情はまた別ですが…。
それに時間をかけて心から可愛がってあげれば気持ちは伝わる物です」
「私…忍耐力は強い方だと思うわ」
そう言って菫がゲージへ手を出すと、さっき西城さんがしたように猫は菫の手の甲を引っ掻いた。