【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
ゲージ越しに青い瞳をした猫と目が合う。血統書なんかついちゃいないんだろう。けれどどこか気品あふれる気高そうな猫だ。
ツンと目を逸らした仕草。どことなく傷ついた瞳は、菫に少し似ている気がする。
それならば、俺も腹を括ろうではないか。
「ねぇ潤」
「あいあい分かった。この子が気に入ったんだろう。なら仕方がない」
「潤ならそう言ってくれると思った!
大丈夫よ。時間を掛ければ心も開いてくれるわ」
そうだな。小さい時の約束をずっと覚えているほど、俺も君も忍耐強い方だと思う。
それに菫に少しだけ似ているこの猫を、俺も嫌いになれそうもない。
君は決めた事を曲げない。それならば俺はもう従うのみ。どうしたって敵いやしない、君の不器用な優しさは誰よりも温かい。
かくして結婚して1か月。一緒に暮らし始めて1か月。
子供もまだまだだと言うのに、我が家には可愛らしい女の子がやって来た。少し毛むくじゃらで目つきの悪い女の子だ。
うちの長女である。
全く持って懐きそうにはない。
それは飼い始めて1か月経過しても、だった。
それでも菫は「猫の飼い方」なんつー本を何冊も購入して、この猫を大層可愛がっていた。
その証に菫の綺麗で真っ白の両手は傷だらけになった。その度に心配する俺だけど、彼女は笑って「こんなの全然痛くないわ」と繰り返すのみ。
猫は…俺たちの近くには寄って来ないが、遠くから見つめていたり、ご飯もよく食うし食欲は一応あるようだった。
ツーンと顔を背けて猫の玩具でひとり遊びをする。不思議な事に人に全く懐こうとしないこの猫が可愛くなり始めたのは1か月を過ぎたあたりから。
その頃には俺の両手もひっかき傷だらけになっていた。