【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
俺は出窓に足を上げると、窓枠ギリギリまで身体を傾ける。それを見て菫は「危ない!」と叫んだ。
そして菫の部屋に向かい、手を伸ばす。春の少しだけ冷たい風が腕に当たる。それでも伸ばし続けた。
「僕を信じて」
その言葉に、菫は花のような笑顔を見せた。
あぁ…。これだ。 普段余り笑顔を見せない菫が笑うと、とても可愛らしいんだ。小さな時から、その笑顔が大好きだった。
俺がふざけると、決まって菫は笑ってくれた。
「何よ、それ。アラジンのつもり?」
ほらやっぱり覚えているんじゃないの。
そんなの忘れたわ、と強がっていた癖に。小さい頃はアラジンに恋をしていた君の事だ。忘れる訳がないんだ。
だって大好きだったもんな、あの話。けれど菫はこちらへ手を伸ばしてはくれなかった。
自分の手のひらをジーっと見つめて、困ったように笑い顔を上げた。
「そんなの、出来ないよ…。潤が私を慰めてくれているのは嬉しいけど…。たとえ潤であろうとお父さんが同棲を許してくれる訳ないもの。
いつまでもそんな所に立っていたら危ないわよ…」
呪縛、と言うのは思っていたよりも強いものなのだろう。
ゆっくりと窓枠から足を降ろし、出窓に背を預け空を見つめた。
空にはまばらではあるが、星が顔を出していた。
いくら手を伸ばしても、菫の場所まで手が届かないのは知っていた。