【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
数分後父に呼ばれ、母に見送られて車に乗せられる。
機嫌が良さそうにハンドルを握る父に対し、車内の窓に映る自分の顔は冴えないものだった。
ボーっと流れゆく景色を見ながら、先日潤と会った日の事を思い返していた。
’僕を信じて’
それは私が大好きだったアニメの、大好きだったアラジンが言う台詞。不覚にもときめいてしまった事がバレてなきゃ良いのだけど。
思えば自由なアラジンは潤によく似ていると思う。人に優しくって、ちょっとお調子者だけど勇気があって…。けれど私はあのプリンセスにはなれないだろう。自由を追い求めて、その手を伸ばす事すら躊躇ってしまうのだから。
潤の向ける瞳が余りに真っ直ぐなものだから、叶いもしない夢を口にしてしまったわ。今考えると馬鹿馬鹿しい。
同棲がしてみたいなんて、大輝さんに影響されすぎだわ。そうしたら潤ったら大真面目な顔をして俺と’恋人ごっこ’しようなんて…。
それはとても変な事なの。大体恋人ごっこって何よ。確かに私は恋がしてみたい。けれど潤と今更恋をするなんて変じゃない。’ごっこ’だとしてもそんなの絶対変。
それに嫁入り前の娘が…たとえ潤であろうと一緒に暮らす事を父が喜ぶ訳ないわ。
ちらりと横で運転する父の顔を見ると、うん?とこちらへ目配せをする。
どういう顔をするのだろう。私は人生で一度もこの人を怒らせた事はない。そしてこの人も感情任せに誰かに怒りをぶつける人ではない。
大地はあんな感じだから、昔から父に間違っている事や納得いかない事があればハッキリと言う。そんな時もまるで宥めるように正論を静かに口にするタイプだった。
母も母で父は間違っていないと信じ切っているような人だから、反抗のひとつもせずにいつもニコニコと微笑みを絶やさずに話を聞くような人だ。
ある意味頑固な人だ。