【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
帰りは家まで大倉さんに送って貰った。
ピカピカの外車。成金がよく乗りそうな趣味の悪い車だったわ。車なんて乗れれば軽でも何でも構わないんだけど
この人がモテない訳はないと初めから見抜いていた。
これ程の容姿を持っていて、若きオーナーであるのならば女は星の数ほど寄って来る事でしょうよ。
実際車内での会話も楽しいものだった。遊び慣れた男が、お嬢様を手玉に取る事など簡単な事なのでしょうよ。
政略結婚というものに夢を見ていた訳ではないわ。寧ろ始めからそこに愛がないとハッキリと言ってくれるのならば、それはそれで彼は誠実かもしれない。
この人は私と結婚したい訳ではなくて、篠崎リゾートの後ろ盾が欲しいだけなのよ。そこまで突き抜けてくれていればある意味笑える。
けれど心はぐちゃぐちゃだった。
父はこの人の何を見ていたんだろう。娘に愛のない結婚生活を送ってもらっても平気だと思えたんだろうか。
「おお、菫おかえり。どうだった?大倉さんは素敵な人だったろう」
「えぇ、お父さんの言う通り素敵な人ね」
私のその言葉に父は満足げに笑う。
母も少し離れた場所でお茶を用意して、穏やかに微笑んでいた。
一緒にお茶でも飲もう、と言われたが…今は母お手製のハーブティーを飲んでも、心は落ち着かないような気がした。
それどころか気を抜いたら父へ恨みつらみを吐き出してしまいそうな自分が怖かった。
「少し疲れたから部屋に戻るわ」
それだけ言い残し、2階へ上がった。
部屋に入って直ぐに大きな窓を開ける。
ふわりと涼しい風が入ると、長い髪が揺れた。
ふと隣の窓へ目を落とすと、カーテンが掛かっていて中の様子は分からない。
いるのか、いないのかさえ。