【完】Dimples 幼馴染のキミと僕

「ピアノは優しく扱いなさないよ」

夕食時、リビングに降りたら母は開口1番にそう言った。

小さな頃からの口癖だったような気がする。楽器類は何ひとつ習った事がないくせして、大切に扱いなさいよと何度も叱られた。

何でも楽器は大切に扱わないと、拗ねて美しい音を奏でてくれなくなるという。

ただの都市伝説やこじつけだと思っているが、浮かない気持ちでピアノを弾く日は何故か音も綺麗に出ない気がしたので、あながち嘘ではないような気もする。

テーブルには何とも豪勢なご馳走が並べられていた。

最近実家に顔を出すようになって、決まって母は俺の大好物を並べる。今日も例に漏れず、シチュー…唐揚げ…ハンバーグ。いや、作り過ぎだろう!

「いや、作り過ぎでしょう…」

「うっさい!最近は仕事も休んでいて暇なんだよッ!する事つったら料理や掃除くらいしかない!
ほんっと専業主婦なんてつまんないもんだよ。早く仕事復帰したいったらないよッ!あたしがいなくて会社は大丈夫なのかね、ね!とーさん!」

父は食卓テーブルに並べられたご馳走を前に、今日もぼんやりとしている。

ワンテンポ遅れ「ああ大丈夫じゃないか、多分」と適当な返事をした。

家では何とも惚けた親父だが、会社ではしっかりとした部分があるのを知っている。寧ろ会社でしっかりしている分家ではボーっとしてしまうのかもしれない。

まぁ母は会社だろうが家だろうが変わりはないパワフルな存在だが。


< 67 / 321 >

この作品をシェア

pagetop