【完】Dimples 幼馴染のキミと僕


「美味しい料理屋さんなんだ。菫さんはフレンチとか好き?」

「えぇ、好きです」

なんて、フレンチなんてちっとも好きじゃなかったけど。

大体高級食材は余り口に合わない。飲食店を営む家の娘の発言とは思えないけれど、そんな仕事をしながら私は25歳になった今でも子供が好きそうな物ばかりを好んで食べている。

シチューや唐揚げ…ハンバーグなんていった何ら変哲のない家庭料理が好きだった。

母はよく凝った料理も作る人だったけど、スパイス類の匂いも味も苦手だった。食材は砂糖と醤油で煮込むのが1番美味しいのだ。

イタリアンレストランのプロデュースに関わっているけど、1番好きなパスタはナポリタンだし、ピザも子供が好きそうなマヨネーズとコーンのたっぷりと乗った物が好きだった。

大倉さんが女性の好きそうなデートプランを用意してくれたのは分かるんだけど……それを喜ぶ女性はきっと私のような女ではない。

「俺は結構和食も好きなんだ。篠崎さんのお店にもよく行くんだけど、料理は抜群に美味しいね」

「ありがとうございます。父が聞いたら喜んでくれると思いますわ。」

「特にとりごやは良いお店だ。」

やっぱり顔は好き。量産系の短い黒の髪型だけど。

涼しそうな目元は少しだけ意地悪そうだけど、どこか爽やかな印象が残る。

端正な顔立ち。笑顔も完璧。けれど、ブランドで固めた身なりはあまり好きではないわ。遊び心が何ひとつないんですもの。

…それを言ってしまえば、私だって人の事が何ひとつ言えない遊び心のない女ではあるのだけど。



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