【完】Dimples 幼馴染のキミと僕
「今度また是非どこかで行きましょう。今度は菫さんの好きな場所にでも」
顔を上げ彼の顔を見つめると、涼しい顔をしてにこりと微笑んだ。…顔は、やっぱり嫌いではないわ。
もう私は笑顔さえ作る余裕がなかった。
家に入るとろくに両親と話をせずに早々に部屋へ上がって行った。
明かりを灯したとほぼ同時に、窓にコツンと石の当たる音が響く。
窓を開けると、潤がいつもと変わらぬ笑みを浮かべて窓枠に両手を掛ける。その顔を見て不覚にもホッとしてしまった。
本当は怖かった。あのまま強引に家に連れ込まれたら、どうしていいか分からなかった。 全身から力が抜けていく様に窓枠に腰を下ろす。体全体が凝り固まってがちがちだったのだと今になって気づく。
「どうしたの?そんな浮かない顔して。何かあった?」
まるで先週の言い合いが嘘のように、潤は柔らかい笑顔を浮かべる。そして私の変化を直ぐに汲み取るものだから、幼馴染とは恐ろしいものだ。
「今日ね、大倉さんとデートしてきたんだけど」
「ああ、例の。で、どうだった?楽しかった?」
「ドライブをして、海に行って海が見えるレストランで食事をしたわ」
潤は自分のおでこを叩き、顔をくしゃっとさせ笑う。
「ありがち~。聞いててむず痒くなる~!
で、楽しかったの?」
その質問には答えかねるわ。ちっとも楽しくなかったなんて口にしてしまえば、ほーら俺の言った通りと調子に乗りそうだもの。
けれど嘘をついて楽しかったと強がる気力ももう残ってなかった。