【完】Dimples 幼馴染のキミと僕

分かっている。私に意気地がないのも。自由になりたい。結婚する相手は自分で決めたい。そう強く心の中で思っていても、父には決して言えない。

潤の言う通りよ。幻滅されるのが嫌で、良い子ちゃんを演じているだけで父には疑問だらけだった。

図星を指されて落ち込む事しか出来なかった。そんな私に潤だって呆れ果てている事だろう。

「菫ッ」

「え?」

顔を上げたら、潤が窓越しに何かを投げてきた。

それはするりと私の手の中に引き寄せられるように入り込んできた。

冷たい金属の感触。ゆっくりと手のひらを開くと、そこには鍵があった。

「これは?」

「俺んちの合鍵!もう恋愛ごっこでも何でもいいや。取り合えず家を出ちゃえよ。菫が家を出たら少し位はおじちゃんだって菫の気持ちを分かってくれるんじゃねぇーの?」

「困るわ。」

「俺は困らない。返して貰わなくて結構。
いらないならばそこらへんに捨てといてくれ」

それだけ言い残すと、潤は窓を閉めてしまった。

…困るわよ。合鍵なんて…。一方的に渡されて、それに突然私が家出なんかしてしまったら、父は黙っちゃいないだろう。

ぎゅっと握りしめた金属片は手のひらの中で徐々に熱を持っていって、いつかの潤の言葉を思い出していた。

’僕を信じて’いや、あれは潤の言葉ではなく、潤がアラジンの言葉をなぞっただけなのだ。深い意味などはない。



今度会った時に直接返そう。そう思いテーブルに鍵を置いて、リビングへと降りた。

今は父と笑って会話が出来るとは思えなかったけど、お風呂には入りたい。お風呂に入るにはリビングを通過する必要がある。今日の事を訊かれたら何て答えよう。気が重たかった。


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