【完】Dimples 幼馴染のキミと僕


「菫、お風呂沸いているわよ」

リビングに降りると母が父と向かい合ってお茶をしていた。

いつまでも仲良しのふたり。…こんな夫婦になるのが夢だった。でも私と大倉さんのいびつな結婚生活の中で、こんな和やかな雰囲気が訪れる日は全く持って想像つかない。

母に返事をし、お風呂へ直行しようとしたけれど、父に掴まってしまう。

「菫、今日の大倉くんとのデートはどうだった?」

仕方がなくソファーに腰をおろし、笑顔を作る。

母は隣でお茶を飲みながら、にこにこと微笑んでいる。

お庭で育ったハーブを使った母お手製のハーブティー。それを出されたけど、今はハーブティーを飲んだところで心が落ち着く気は全くしなかった。

「楽しかったわ」

この問いかけに対しての正しい回答はこれだろう。父もきっとその質問に対して、それしか許さなかった。

私はいつから父の問いかけに対し素直な答えを言うのではなく、答えを探すようになってしまったのだろうか。1番喜ぶ回答を…あらかじめ用意されていた正しい答えを…。

「それは良かった。大倉くんは菫より年上だし色々な事を知っている。話していて楽しいだろう」

父は満足気な笑みを浮かべる。

確かに彼は大人ね。私と結婚はしたいけれど、女は囲っていたい程ね。

子供でも正しくないと分かる事を、何故大人になっても分からないままなのか。

気持ちが爆発しそうだった。潤が悪い。…潤が帰って来なければ…余計な事を言わなければ…私の心を揺らさなければ…

私は笑って父の望む模範的な回答を、疑問さえ持たずに答えられていた筈…。



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