私に恋する可能性



「間部さん?」


…え


「あれ、なんでこんな時間、に…」


多岐…くん?

なんで…



私に近づいた多岐くんの目が私の後方を捉えた瞬間


その色が変わった


「多岐…く」


一瞬鋭く光った目は私の後ろの男をきつく睨む
そして大きく右腕か動いた


あ、多岐く…


ドコッ!


にっぶい音が狭い車両に反響した


「ぐぅっ」


な、殴っちゃった…

え、いいの?


突然現れた多岐くんが私の理解が追いつくよりも前に痴漢の男を殴り飛ばした


当然ざわつく車両内


「な、何をするんだ!」


おっさんが多岐くんを睨みつける


「は?逆になんで殴られないと思ったわけ?俺の彼女に手出してんじゃねぇよクズ」


ゾゾッ

あまりにも低いドスの効いた声に鳥肌が立つ


男の人は決まり悪そうに顔を隠しながら車両を出て行った



「…」

「大丈夫か」


多岐くんがまだ少し怒りの残った声で言った


「…っ」


大丈夫って言おうと思ったけど

ヒュッヒュッと息を吸うのに必死で声が出ない

ただ顔面蒼白になって、手を震わせているだけ


怖かった…

怖かった


多岐くんが来てくれなかったら、私…どうなってたんだろ


震える手を隠すように下を向く



「…間部さん」


私の震える手を覆うように多岐くんの手が重なった


「…怖かったよね」


…コクっとうなずく


「…すぐに助けに来られなくてごめん」


…ふるっと首を横に振る


多岐くんがこの時間にこの電車に乗っていてくれたことは奇跡だ


そして私を助けてくれた


多岐くんがいて…よかった


改めてそれを実感するとドッと何かが溢れてくる感覚



下を向いていた私の足元に溢れる涙


ポタポタと止めようとしても延々と落ち続ける


「ふ…う」



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