私に恋する可能性



「…」


死んでも顔は見せまいと首を直角に曲げて泣き顔を隠す


止まれ止まれ止まれ


下唇をグッと噛む


せっかく助けてくれたんだから


お礼言わなきゃ






すると、


私の手を掴んでいた多岐くんの手に力が入った



ドアの方を向いていた私の
横に立っていた多岐くん


その手をぐっと引っ張られて体の向きが変わる


そのままポスっと多岐くんの胸に顔を埋めるような形になった


状況が飲み込めない私の頭を自分の胸に押し付ける多岐くん


これは…えっと


多岐くんが抱きしめてくれるみたいな格好





普段の私だったらきっと嬉しさや胸のときめきで騒がしくなっていただろう


でも今は…そんな余裕はなかった



ただ鼻いっぱいに広がる多岐くんの香りにスッと恐怖が消えていくのを感じる



「…このままでいて」


「…うん」



多岐くんが背中に回してくれる手


そこから伝わるかすかな熱


それから…ちょっと早い鼓動


これは、私の音かな


それとも…



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