私に恋する可能性



うわ、なんだこれ


めっちゃ俺らしくなくない?


なんでこんなに考え込んでんの





ひなたの兄さんに会っただけなのに


なんでこんなに動揺してんだろう


前に少しだけ聞いた


ひなたは両親がいなくて、兄さんと2人で暮らしてきたって


その、唯一の家族に会った


それが俺をこんなにも乱す


これもあれ?

恋ってやつの延長線?


もうわからないよ


ただ…ひなたの兄さんの俺を見て少し青ざめた顔が忘れられなかった


「多岐くん?」


あんまりにもぼうっとしていたからか、ひなたが俺の顔を覗き込む


…いや


「…初対面でこれはまずかったかなって」


自分の髪の毛とピアスを改めて認識させる


…うん


「まずいっていうくらいなら…なんでしてんのって話だよね」

本当に


なんでだろう

「なんかこういうのつけてチャラチャラしてたほうが生きやすいって思ってたから」


自分を着飾って、周りに合わせて


何にも本気にならないチャラついた人間であればうまく生きていけるって思ったから


何かに悩むこともないだろうって思ってたのに



「…初めてつけなきゃよかったって思ったかも」



こんなのつけてなければ、ひなたとあんなひどい出会い方しなかったかもしれない


突き放すことなんてなかったかもしれない


「そんなにお兄ちゃんに見られるの嫌だった?」


いや、そうじゃない


「ただなんか、今みたいな生き方してなかったら…もっとちゃんと…」


『しっかり』生きていれば…


俺はひなたの隣に堂々と居て


堂々と気持ちを言えたかもしれない



「ごめん…俺何言ってんだろうね」


そんな事後悔したところで


耳に開いた穴は戻らないし、髪の色だって簡単には変えられない


「多岐くん…?」


「帰ろう」


くだらない


考えたところでどうこうなる事じゃない

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