私に恋する可能性
放課後
「んじゃ、よろしく」
犬飼先生の後ろ姿を全力で睨みつける
いやね?遅刻したのは私だしね?
だけどさぁ
めっちゃ力仕事じゃん!
数学のワーク、1学年分を資料室から運ぶという仕事
ぐぬぬ…解せぬ
さっさと終わらせよう
果てしない束に見えるワーク
その何分の1かを手に取る
重い
なんでこんなに重いの
何往復すればいいんだこれ…
ゴールが遠いぜ
「あーもうー!」
分厚い束を両手で抱え込むようにして持ち、いざ出陣
ーーー
ぜぇ…はぁはぁ
何回目だろこれ…
やっとのことで底が見える
ラストだぁ…
疲れた…え、めっちゃ疲れた
これ明日筋肉痛だ
多分腕が上がらなくなるタイプの筋肉痛
だいぶ少なくなった束を抱えて資料室を出る
何回も通った長い廊下を歩きながら浅いため息をつく
「ねぇあれ」
「あー噂のあの人じゃん」
「何やってんの草」
く、草
嫌な予感
今日何度となく聞いたからかうような音を持った声
案の定私の予感は当たる
「自称彼女サン何やってんの?」
うわぁ
昨日の朝、下駄箱で多岐くんにくっついてた女の子軍団と鉢合わせるという最悪の事態
「遥と一緒に帰んないんだぁ」
「一緒には帰りませんよ」
ちょっと早口でそう返す
「ええなにそれぇ絶対彼女って思われてないじゃん」
一際目立つ、長い髪をおしゃれに巻いた女の子が笑った
「彼氏彼女の関係はいろんなあり方がありますから口を挟まないでください」
私たちはそういうタイプのカップルなの!
カップルってまだ呼べないかもだけど