新 不倫
「どうかな岸本さん?描いてみない?」
「え・・・私がですか・・?」
「うん。・・あ、そういえば言ってなかったけど、
コンクールがあるブラスバンド以外の文化部って、基本的には6月で引退なんだ。
だから私がここに来るのも今月いっぱいだから。」
「じゃあ・・余計に先輩が描いたほうが・・。」
「ううん。私は昨年と一昨年描かせてもらったし、
これ以外にもこの2年でたくさん思い出と納得いく絵が描けてきたからもう十分だよ。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・中西先生、ポスターって色鉛筆画でもいいですよね?」
「・・zzz…・・あ・・はい。
何でも大丈夫です。」
「あんまり“活動”っていう活動が無い美術部の貴重なイベントだからさ、
後輩にぜひやってもらいたいな。」
咄嗟に、窓際に座る田中君の方を見た。
「・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
私の視線を感じたのか、漫画を描いていたノートからこちらに顔を向け、
無言で会釈をする・・
ので私も軽く会釈する。
多分、“こういうのは岸本さんの方が向いてる”みたいな事を言ってあらかじめ断ったのかな。
「あ、じゃあ・・・・
ぜひ・・やってみたいです。」
挑戦してみたい気持ちが強くなったと同時に・・
“ポ、ポスター!?おいおいどこに貼られるんだ?会社のみんな連れて見に行くから!”
もしお父さんが生きてたら、きっと喜んでくれたんだろうなって・・
ちょっとだけ哀しくなった。