新 不倫
「じゃあ・・先に出ますね・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・。」
「待って。タクシー代・・。」
「それぐらい自分で出せますから・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
「じゃあ・・また・・。」
「・・・うん・・・・・・。」
“もう、こうして会うのはやめよう”
お互い分かっている事なのに、
お互い持っている認識なのに、
それでも“また”と言ってしまう。
泣き腫らした視線を向けられ、
静かに部屋を出ていく後ろ姿。
それを見送った瞬間、覚悟は決まった。
明日・・・妻を殺す・・・。
もうそれしか・・俺達に幸せは訪れない。
いや・・俺なんかはどうでもいい。
“あの子の幸せ”を叶える為には・・
もう・・こうするしかない。
「・・・・・・・・・・・・。」
街の夜景が一望できる窓、
乱れたシーツと残り香漂うベッド、
ジャズのBGM流れる部屋、
一人取り残されると・・
いつもそこには虚しさしか残らない。
一緒に入る事も、
一緒に出て行く事も出来ないホテル。
繋いでも、重ねても、
撫でても、結んでも、
絶対に縮める事のできない距離。
それでもその手を、その唇を、
その身を、その痛みを、
俺に預けてくれるあの子の気持ちを・・あの子の幸せを叶える為には・・
この左手薬指に巻かれた呪縛を断ち切るしかない。
だから明日・・・妻を殺す・・。