エリート御曹司と婚前同居。 〜人助けしたら、契約結婚させられそうです〜
「美唯さんいらっしゃい。よく来てくれたね……」
「お、お邪魔します」
一年前、会った日にはとてもオーラがあった彼は部屋着で寛いでいる。
「来るなら、早く言えば良かったのに……こんな格好、恥ずかしいじゃないか。」
「いや、面倒だし」
「でも麗央フラれなくて良かったじゃないか……美唯さん、一年前はすまなかったね」
麗央さんのお父様は立ち上がると深々と頭を下げた。
「や、やめてください……頭を上げて下さい。私は裕福な家庭じゃなかったですし、あの時、職もありませんでした。なので、お父様に相応しくないと言われて納得してしまったのも事実です」
「本当にすまなかったと思っている……美唯さんが麗央と付き合っているのは、お金目的ではないかと思ってしまった。私もね、若い時そういう経験あったからね……だけどあの日、君はお金を受け取らなかった。しかも受け取ったと嘘を伝えるように言った、強い子だなと思ったよ」
彼をお金で売るなんて、出来なかったんだ。
それに受け取ったって聞けばきっと……憎い相手になる。
覚えておいて欲しいと、最後の悪あがきだったんだ。
とても、麗央さんのことが好きだったから。
「……私の妻は、美唯さんと同じ一般家庭だっただよ。彼女はね、周りからの偏見な目や社長夫人というプレッシャーから精神的に病んでしまった。後に、寝込みがちになり彼女は全く笑わなくなって、数年後に死んでしまったよ。だから麗央の奥さんには……メンタル面が強い人がいいと思っていた」
少しだけなら、聞いていた。麗央さんのお母様のことを。彼が学生時代に精神的に病んで、亡くなったんだと……。
「それにね、人は足らない部分を補いあって生きていく生き物だというのに……彼女の中の葛藤に気づいてやれなかった。それもあって麗央には、大切な人の弱いところを受け止め補いあえるように、頼ってもらえるような強い人になって欲しかったんだ」