翼のない鳥
ゲーム、スタート
水無瀬 司side
「律の馬鹿!」
泣きそうな声だな、と思った。
美鶴の表情は角度的に見えなかったけど、多分、同じように泣きそうに歪んでるんだろうなと思った。
パチン!と乾いた音が鳴って、美鶴は身をひるがえした。
「ちょ、美鶴おい!」
真秀が焦ったような声をだす。
コイツがこんな声するの、珍しいよな。
―――しかも、女相手に。
色々と思うところはあったが、まあ今考えることでもないか、と隅に置いた。
それよりも。
視線の先には、絶世の美少年。
・・・近くで見ると、やっぱ綺麗だな。
片割れである美鶴も驚くほど綺麗ではあるけれど、その人懐っこさや明るさ、ちょっとドジなところやガサツさから親しみやすさを感じられる。
けど、弟の方は真逆。
周囲に向けるのは常に無表情。
そしてそれは唯一、美鶴に対してのみ崩される。
今の彼からは、さっき見た、美鶴に向けられた優しい笑みが信じられないほどだ。
白磁の肌は赤く染まり、痛々しい。
作り物みたいな、現実離れした美しさをもつ彼は、頬の痛みにほんのわずかに顔を歪めたが、すぐに何もなかったように無に戻った。
「ちょ、お前何考えてんだよ!」
そんな弟に真っ先に突っかかったのは、真秀。
頭に血が上りやすいからなあ・・・
さてどうしたものかと悩んでいると、弟が口を開いた。
「・・・水無瀬、司。」
「無視すんなやテメェ!」
真秀を無視して、俺の名前を呼んだ彼は、本当に何を考えているのだろう。
「うん、何かな?」
心に渦巻く疑問は、表に出さない。
あくまでにこやかに。
穏やかに。
俺はここの、トップなのだから。